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銀と金

 

 

  

籠絡の決め手は彼らがこう理解してほしいという『思い』のとおりに彼らを理解してやることだ

 

 

銀と金はあまりに名セリフが多すぎて選ぶのに迷いますね。全体的には金とギャンブルと悪人に関することがほとんどなんですけど、その中で上記のセリフは人間関係におけるかなり重要な言葉だと思います。

 

僕らはいつも自分の中に理想を持っていて、それを叶えられないことにコンプレックスを感じて、だからこそ認められたがっている。自分の容姿に不満を感じている人がどれだけ「可愛い」「かっこいい」と言われたがっているか、そこのところは実際には本人にしかわかりません。それでも、それを見極めて一番ほしい言葉を与えれる人がいたなら、きっといともたやすくその人の心の中に入れるでしょう。

 

漫画の中にはポーカーとか麻雀とか競馬とか殺人鬼とかが出てきますが、作者の福本先生は特別それについて詳しいわけでないそうです。まあ殺人鬼の心理に関して詳しくても普通に考えたらただの危ない人なんですけど。そういう話は置いといて、素人の方がプロよりうまく書けることは意外とあります。

 

僕はもうずっと麻雀をやり続けているので、逆に麻雀を知らない人に対して説明するとき、どこから説明すればいいのかよくわかりません。日頃も麻雀を知っている人としか麻雀の話をしないので前提は常に共有されています。それは共通の理解がもたらす楽しさや面白さでしかありません。

 

カイジとかもそうですけど、福本漫画はおおよそ心理的なやりとりがメインと言っても問題ないと思います。もちろん、対人のギャンブルというのは全て心理的駆け引きの要素がありますが、その心理的要素をいかに面白く見せるかにこだわったのが銀と金です。ポーカーなんかろくにわからなくてもいい、そこに金というわかりやすい目に見える価値を置いて、心理的なやりとりで勝負のヒリつきや勝ち負けの興奮などのギャンブルの醍醐味を味わわせる。

 

麻雀を知らない人に役満のすごさを説明するのは意外と難しいし、それが成立するかしないかの微妙な部分はもっとわかりにくい。でも、あと一枚が出れば一兆円と言われれば誰でもすごさがわかる。そうやって少しでもうまく読者に読ませる、そういうのがちゃんとできてるんですよね。

 

主人公は貧しいフリーター生活で友人もろくにいないひとりぼっち。たまの競馬で金をスってはイライラするだけ。そんな状態から億単位の金が動き、悪人がはびこる、人間の欲望の世界に入る。漫画が発表された当時より、世の中に閉塞感を覚えている今の人たちの方が刺さるんじゃないかって思います。

 

世の中は悪人だらけで、金だけが正義で、正しさなんてものは誰かの都合にしかすぎなくて、それでも僕らはあがきながら現実の中で生きている。

 

 

夢を見ろ…!

人が生きるってことは夢を見るってことだぜ

それを見なくなったら死人だ……

 

 

たとえどうやっても叶わないような夢でも、現実の腐れ具合に心が折れそうになっても、一人でひっそりと夢を腹のなかに抱えているのが大事かなって。まわりに誰もいなかったとしても、否定され続けて自分を見失っても、ただ一つ夢だけあれば自分を生かしてくれる。そう考えれば、甘ったるくても夢を見るのはやめられないですね。